2026年10月13日(火)、三重産業保健総合支援センターが開催する産業保健研修会において、当社代表の吉川 諒が「職場における受動喫煙対策 ~法令遵守と健康経営の両立~」をテーマに、2時間の研修講師を務めました。
今回の研修では、産業医・労働衛生コンサルタントの立場から、受動喫煙による健康影響や関係法令の解説に加え、実際の職場巡視で確認すべきポイント、喫煙所の適切な管理方法、衛生委員会での継続的な改善活動、健康経営への展開などについて取り上げました。
特に重視したのは、「法令を理解するだけで終わらず、明日からの職場で具体的に何を確認し、どのような改善につなげるか」という実務的な視点です。
受動喫煙対策は「喫煙マナー」ではなく「労働衛生管理」の課題
職場における受動喫煙対策というと、「喫煙場所を決める」「分煙する」「喫煙マナーを守ってもらう」といった対応を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、産業保健の専門家として重要なのは、喫煙者と非喫煙者の問題として捉えるのではなく、労働者が望まないたばこの煙にさらされない職場環境を整備することです。
例えば、屋外に喫煙所を設置していても、建物の出入口や窓、外気取入口の近くに位置していれば、風向きや建物の構造によって煙が屋内へ流入する可能性があります。
また、喫煙所の清掃を担当する従業員や委託業者、喫煙所付近を通行する従業員など、喫煙者以外の方への影響も考慮する必要があります。
今回の研修では、受動喫煙対策を「誰が悪いか」という問題ではなく、以下の3つの観点から評価する重要性を解説しました。
- 曝露源: たばこの煙やエアロゾルがどこで発生しているか
- 曝露経路: 出入口、窓、換気設備、通路などを通じて、どのように周囲へ広がるか
- 曝露を受ける人: 従業員、来訪者、清掃担当者など、誰が影響を受ける可能性があるか
これは、化学物質管理などにも共通する労働衛生の基本的な考え方です。
受動喫煙対策においても、個人の注意や配慮だけに依存するのではなく、職場環境そのものを改善する視点が欠かせません。
健康増進法と労働安全衛生法の両面から考える受動喫煙対策
職場の受動喫煙対策では、健康増進法と労働安全衛生法の両方を理解することが重要です。
健康増進法に基づく受動喫煙防止対策
2020年4月に改正健康増進法が全面施行され、多数の人が利用する施設における受動喫煙防止対策が強化されました。
施設の種類によって適用される規制は異なり、学校、病院、児童福祉施設等の第一種施設では原則敷地内禁煙、一般的な事務所や工場等の第二種施設では原則屋内禁煙となっています。
第二種施設では、法令で定められた要件を満たす喫煙専用室等の設置が認められる場合がありますが、標識の掲示や20歳未満の者の立入禁止など、遵守すべき事項があります。
労働安全衛生法に基づく労働者の健康保護
一方、労働安全衛生法第68条の2では、事業者に対して、労働者の受動喫煙を防止するため、事業者および事業場の実情に応じた適切な措置を講ずるよう努めることが定められています。
つまり、施設として法令上の基準を満たしているかという観点だけでなく、実際に働く従業員が望まない受動喫煙にさらされていないかという観点も重要になります。
研修では、健康増進法による施設管理上の規制と、労働安全衛生法による労働者の健康保護を整理し、産業医、保健師、衛生管理者等が実務でどのように対応すべきかを解説しました。
喫煙所は「設置したら終わり」ではない|職場巡視で確認すべきポイント
今回の研修で特に力を入れたのが、喫煙所の設置状況だけでなく、実際の管理状態を評価する方法です。
例えば、法令上の喫煙専用室に求められる技術的基準には、原則として次のようなものがあります。
- 喫煙室の出入口において、室外から室内へ流入する気流が0.2m/秒以上であること
- たばこの煙が室外に流出しないよう、壁や天井等によって区画されていること
- たばこの煙を屋外または外部の場所へ排気すること
※施設や喫煙室の区分、既存施設に関する経過措置等によって適用要件が異なる場合があります。
しかし、設置時に基準を満たしていても、その後の設備の劣化や不適切な使用によって、十分な受動喫煙防止効果が得られなくなる可能性があります。
そのため、職場巡視では、次のような項目も確認することが重要です。
- 喫煙室の扉が開放されたままになっていないか
- 換気設備が適切に稼働しているか
- 排気口の位置が出入口や外気取入口に近接していないか
- 屋外喫煙所から建物内へ煙が流入していないか
- 非喫煙者が日常的に通る動線上に喫煙場所がないか
- 喫煙所の清掃担当者が受動喫煙にさらされる状況になっていないか
- 標識や利用ルールが適切に整備されているか
また、社用車内での喫煙や、加熱式たばこの取り扱いなど、事業場によって判断に迷いやすい事項についても取り上げました。
受動喫煙対策は、設備を導入すること自体が目的ではありません。
実際の曝露を防止する機能が維持されているかを確認し、必要に応じて改善することが重要です。
衛生委員会を活用した継続的な改善と健康経営への展開
受動喫煙対策を一時的な取り組みで終わらせないためには、事業場として継続的に管理する仕組みが必要です。
今回の研修では、衛生委員会等を活用し、職場巡視で確認された課題や従業員からの相談を改善活動につなげる方法についても説明しました。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 職場巡視に受動喫煙対策の確認項目を組み込む
- 従業員からの相談や意見を把握できる体制を整備する
- 改善が必要な箇所について、担当者と対応期限を明確にする
- 対策実施後に、煙の流入状況や運用状況を再確認する
- 禁煙を希望する従業員に対して、禁煙外来等の情報提供や支援を行う
特に重要なのは、受動喫煙対策を「喫煙者と非喫煙者の対立」にしないことです。
非喫煙者の健康を保護することと、喫煙者の禁煙を支援することは、対立する取り組みではありません。
職場全体で健康を守るという共通の目的を明確にし、従業員の理解を得ながら進めることが、継続的な改善につながります。
このような取り組みは、法令遵守にとどまらず、従業員の健康保持増進や働きやすい職場環境づくりという健康経営の考え方にもつながります。
産業医・労働衛生コンサルタントとして大切にしていること
当社では、産業医業務や職場巡視、安全衛生委員会への参加などを通じて、企業の労働衛生管理を支援しています。
その中で大切にしているのが、「法令遵守を前提に、現場の実情に即した、実行可能な改善策を提案すること」です。
例えば、受動喫煙対策について課題が見つかった場合でも、直ちに大規模な設備改修を提案するのではなく、まずは現場の状況を確認します。
喫煙場所の配置、従業員の動線、換気設備、建物の構造、費用面などを総合的に検討し、必要な健康保護の水準を確保できる改善方法を考えることが重要です。
改善の内容によっては、喫煙場所の移設、利用ルールの見直し、清掃手順の改善、設備の適切な維持管理など、比較的取り組みやすい対策から進められる場合もあります。
一方で、簡易的な対応では十分な曝露防止が難しい場合には、設備改修や喫煙場所の廃止を含めた検討が必要になることもあります。
今回の研修でも、単に「こうすべき」と説明するだけではなく、参加者がそれぞれの職場に戻った際に、何を確認し、どのような順序で改善を検討すればよいかという判断の枠組みを重視しました。
三重県を中心に、企業の受動喫煙対策・安全衛生管理を支援しています
株式会社吉川労働衛生コンサルタント産業医三重事務所では、三重県を中心に、愛知県・岐阜県・滋賀県などの企業に対して、産業医業務や労働衛生に関する支援を行っています。
代表の吉川 諒は、医師・産業医・労働衛生コンサルタント(保健衛生)の資格を有しており、医学的な知見と労働衛生管理の専門性を生かした支援を行っています。
受動喫煙対策のほか、メンタルヘルス対策、職場復帰支援、ストレスチェック、長時間労働者への対応、熱中症対策、化学物質管理、職場巡視、安全衛生委員会の運営支援など、幅広い産業保健課題に対応しています。
また、企業の安全衛生担当者や管理職、従業員を対象とした研修・講演についてもご相談いただけます。
「喫煙所の設置状況が適切か確認したい」
「従業員から受動喫煙に関する相談が寄せられている」
「衛生委員会で受動喫煙対策を取り上げたい」
「法令遵守と健康経営の両面から職場環境を改善したい」
このようなお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
今後も、産業医・労働衛生コンサルタントとして、専門的な知識を現場で実行できる対策へとつなげ、企業と従業員双方にとって、より安全で健康的な職場づくりに貢献してまいります。
株式会社吉川労働衛生コンサルタント産業医三重事務所
代表取締役 吉川 諒
医師/産業医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)
対応地域:三重県・愛知県・岐阜県・滋賀県など
産業医契約、職場巡視、安全衛生委員会支援、ストレスチェック、各種安全衛生研修・講演など、お気軽にお問い合わせください。

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